専門誌『企業実務』掲載事例から考える/行動経済学 × ナッジ × 問い文化
人を変える前に、
動きやすい環境をつくる。
「もっと意識して」「ちゃんとやって」と言い続ける前に、日常の中に、少し気づきやすく、少し考えやすく、少し選びやすい仕掛けを置く。
それが、ナッジ。
そして職場では、「問い」を使った小さなナッジもつくれます。
SECTION 1
人は、いつも合理的に判断しているわけではない。
伝統的な経済学の想定
- 必要な情報を把握し
- 合理的に比較し
- 自分にとって最善の選択をする
しかし実際の人間は
- 忘れる
- 面倒なことを後回しにする
- いつもの行動を選ぶ
- 目についたものに影響される
- 周囲の人の行動に影響される
- 将来より目の前を優先する
SECTION 2
経済学に「人間らしさ」を持ち込んだ行動経済学。
リチャード・H・セイラーは、心理学的に現実的な人間像を経済学に取り込み、限定合理性・社会的選好・自己統制の弱さなどが意思決定にどう影響するかを研究した経済学者です。2017年には、「行動経済学への貢献」によりノーベル経済学賞(正式にはスウェーデン国立銀行経済学賞)を受賞しました。
SECTION 3
命令ではなく、選びやすい環境をつくる。
ナッジとは、本人の選択肢を残しながら、望ましい行動を少し選びやすくする仕掛けです。
- 強制しない
- 禁止しない
- 大きな罰を与えない
- 自由を残す
- でも行動環境を少し工夫する
SECTION 4
世の中には、こんなナッジがある。
社会的規範を伝える
英国では税の督促文に、多くの人が期限どおり納税しているという趣旨の社会的規範メッセージを加えることで、支払い率が改善した実証例があります。
選択肢の見せ方を変える
健康的な食品を目につきやすい位置に置くなど、選択肢そのものは変えず、見え方や選びやすさを変える方法。
デフォルトを工夫する
何もしなかった場合にどうなるかという初期設定を工夫することで、行動しやすくする。
行動の手間を減らす
望ましい行動までのクリック数、記入項目、手順、移動距離などを少なくし、始めやすくする。
SECTION 5
社員も、毎回すべてを考え抜いて仕事をしているわけではない。
- 報告した方がいいと分かっている
- 確認した方がいいと分かっている
- 運動した方がいいと分かっている
- 顧客の話を聞いた方がいいと分かっている
- 改善した方がいいとも分かっている
それでも、いつもの仕事の流れでは、そのまま忘れてしまう。
SECTION 6
職場で使えるナッジ
健康的な行動を思い出しやすくする。
確認行動を始めるきっかけを置く。
共有するタイミングを思い出させる。
誰かへの声かけを思い出させる。
ムダや非効率を一度問い直す。
本人に一度自分で考えてもらう。
顧客への一歩を意識させる。
自分の状態を少し見るきっかけを置く。
SECTION 7
人は、問われると、つい少し考える。
SECTION 8
問いで気づき、選択肢で行動の候補を見せる。
SECTION 9
「こんな行動もある」と見せるだけでも、意識は変わる。
今日、自分を整えるために一つ選ぶなら?
- 少し体を動かす
- 食事を少し意識する
- 休憩を取る
- 誰かに相談する
- 今日は内緒
選択肢を見ることで、「休憩するという選択もあるな」「誰かに相談してもいいのか」と考える可能性が生まれる。
SECTION 10
ナッジだからこそ、選ばない自由も残す。
また、匿名回答でもよい。なぜなら、問いの目的は必ずしも、会社が回答を知ることではないから。
SECTION 11
ほんの数秒、いつもの行動に割り込む。
一回の介入は非常に小さい。だからこそ——
- 日常を止めにくい
- 繰り返しやすい
- さまざまなテーマに使える
SECTION 12
出勤と退勤の数秒に、問いを置く。
ここで初めて、実装例としてスコキン(すこやか出勤)を紹介します。スコキンは、出勤・退勤など、もともと毎日起きる場面に短い問いを置き、本人が選択肢から一つ答える仕掛けです。
朝
- 今日、一つ自分から動くなら?
夜
- 今日は、自分から動けた瞬間は?
SECTION 13
大切なのは、タブレットではなく「問いが日常にあること」。
スコキンがなくても、問いを置く方法はあります。
スコキンは、問い文化を職場へ実装するための、一つの便利な手段。
SECTION 14
一つの行動ではなく、職場のいろいろなテーマへ。
専門誌『企業実務』掲載事例では、問いを、次のようなさまざまなテーマに展開しました。
SECTION 15
問いを置く人が、社長だけではなくなった。
すると、「今日は何を問おう?」と考えること自体が、職場について考えることになる。
SECTION 16
仕掛けから、文化へ。
ナッジ
人が少し望ましい行動を選びやすい環境をつくる考え方
問いナッジ
問いと選択肢によって、注意・思考・選択・行動を小さく促す方法
問い文化
日常に考えるきっかけがあり、経営者・管理職・社員が互いに問い手にも回答者にもなっている職場
SECTION 17
職場に合わせて、問いの置き方を変える。
スコキン
出勤・退勤などの日常動線に置く。
問いステーション
特定の職場・場所に問いを置く。
セミナッジ
研修後に個人へ問いを届ける。
さらに——
SECTION 18
問いは短い。でも、設計は深い。
問いを作るときは、次のようなことを考えます。
- 何を意識に上げたいか
- どんな行動につなげたいか
- いつ問うか
- 誰に問うか
- どんな選択肢にするか
- 答えやすいか
- 小さな行動になっているか
- 自由が残っているか
- 管理感がないか
- 繰り返しても負担が小さいか
問い設計の9視点
SECTION 19
何でもナッジで解決しない。
- ハラスメント
- 違法な長時間労働
- 深刻な人員不足
- 重大な安全リスク
- 明確な規則違反
- 権限や制度上の欠陥
などは、明確なルール・指示・制度変更・構造改善を優先してください。
SECTION 20
良いナッジは、本人の自由を残す。
避けること:
- 選択肢を実質的に奪う
- 会社に都合のよい答えだけにする
- 回答を評価に使う
- 隠れた不利益を与える
- 自己開示を強制する
- 強い同調圧力をつくる
SECTION 21
自社なら、どこにナッジを置く?
今日、自分を整えるために一つ選ぶなら?
今日、一つ丁寧に確認するなら?
今日、一つだけ減らせるムダは?
今日、一人に声をかけるなら誰?
今日、一つ自分から動くなら?
今日、先に共有しておくことは?
今日、お客様にもう一歩できることは?
御社では、「分かっているのに実行されないこと」は何か。
その瞬間に、どんな小さな環境設計を置けるか。
御社では、どんな行動を「少し選びやすく」したいですか?
自社に合う「問いナッジ」を相談する 問い文化の取り入れ方を相談する変えてほしい行動だけでなく、「なぜその行動が今は起きていないのか」から整理し、タイミング・問い・選択肢・実装方法まで一緒に設計します。
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